「戦争で株価暴落」は果たして本当か?(2022年ウクライナ侵攻)

ウクライナとロシアの攻防。日に日に緊張を増す世界状況。
今回は、戦争や抗争時に市場はどうなるかを調べてみました。

過去の戦争等にスポットをあて、その時のダウや日経平均動向、金やプラチナなどの商品市場の大まかな動き、そこから生まれる格言などを調査。昨今のウクライナ情勢まで落とし込みロシアや欧州の状態などにも視点を当てて市場にどのように影響するのかを見てきたいと思います。

過去戦争時での市場動向

1.株価の動き

大なり小なり戦争や紛争が世界では数多く起きています。
比較的大きな危機での世界の指数はどう動いたのか調べてみました。

1939年第二次世界大戦…日本株は全体として上昇しました。
NYダウも上下を繰り返しながら終戦にかけて上昇しています。
もっとも日本では物価上昇もありました。

1962年のキューバ危機…NYダウは大幅な上昇がみられました。
前年度のケネディスライド(ジョンF.ケネディの大統領任期中の1961年12月から1962年6月までの株式市場の下落に与えられた用語)の影響もあり株価が底をついていたのも要因です。(日経は横ばい)

1990年の湾岸戦争…クウェート侵攻時には株価が下がりますが、湾岸戦争開始時はNYダウ、日経平均ともに上昇しました。(日経平均は勢いが少し落ちたが、ダウはその後も上昇。)

2001年アメリカ同時多発テロ事件後のアフガニスタン紛争時…NYダウ、日経平均ともに上昇しています。
(直近にITバブル崩壊で底をつきかけていた)

2003年のイラク戦争…戦争開始と同時にNYダウは上昇トレンドに切り替わりました。石油利権のためアメリカによって有利に働いたともいわれています。
日経平均も少しの下落のあと上昇を続けました。

比較的大きな出来事をピックアップしてみましたが、様々状況と理由が相まっていますが、基本的に戦争直後からは上昇している傾向が強いようでした。

2.金、プラチナ、仮想通貨の動き

…有事の金と呼ばれるように何か起きると安全資産の金への投資が高まります。
当ブログでも記事にしましたが、コロナショックでもその強さを発揮しました。
だがいつもそうとは限りません。イラク戦争、湾岸戦争勃発時には金価格は下げています。しかしこれには特徴があり、戦争前は価格の上昇がみられ、実際に勃発後は下落に転じています。戦争の噂と予兆で有事の金に注目があつまり投機筋によって利確売りを浴びせられた格好になったといえます。上記の指数系の動きとは逆になっていることがわかります。

プラチナ…プラチナは以前は金と同じように希少性や信用性などから一時期は金以上の価格価値がありましたが、最近では、金より指数系に引っ張られることも多くなったのと、主な利用用途であるディーゼル車の販売減少さらにはメインの産出国である南アフリカランドの下落などによりプラチナ価格の下落につながりました。
今では金と比べると注目が集まりにくくなっております

仮想通貨…仮想通貨は現在の立ち位置が曖昧です。
金と同じように安全資産と見なされることもあれば、現状のウクライナ情勢ではリスク資産と見なされることもあり、まだその位置が定まっていません。
ただ金と同様に大きな視点で見ればまだ上がり続けているチャートなのとその可能性がいまだ未知数の部分が多く、避難先の選択肢として選ばれるのもうなずけますが、これから先その選択肢が残り続けるかはその都度判断が必要になってくる形になります。

3.国内での戦争時に動きやすい業種・銘柄

こちらは日本にスポットを当ててみました。
日本国内において、戦争時に動きやすい業種・銘柄はあるのでしょうか?
調べてみるとやはり、戦争懸念から上がる銘柄は、「防衛」関連銘柄となります。
地政学リスクの高まりがそのまま、防衛関連の製品をつくる企業への関心の高まりと比例しているようです。
上昇タイミングとしては大きく動くのは初期状態の開戦懸念時となるようです。
代表的な個別銘柄は以下に5つ紹介したいと思います。
・石川製作所(6208):段ボール製函印刷機、防衛機器加えた2本柱で業務運営。
・細谷火工(4274):自衛隊向け照明弾、発煙筒大手。
・豊和工業(6203):火器、防音サッシなどの製造販売。
・重松製作所(7980):産業用防毒マスクで高シェア。
・東京計器(7721):航空計器、防衛省向け機器、油空圧機器、流体機器等の製造・販売。
なお、戦争などの状況により突如乱高下したり、また株価上昇の期間は短期的になる事も多い為、国際情勢を注意深くみる必要があるようです。

4.戦争格言

長く言い伝えられている「相場格言」には、投資の本質を示し、投資判断の参考になります。
戦争に関する格言を調べてみたところ、以下の3つが代表的な格言になるかと思います。

「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」…遠くで発生した戦争は売り材料となりにくいが、近くで発生した戦争からは被害をこうむる可能性があるので売り材料となりやすい、との意味。

「有事のドル買い」…戦争などが起こった場合、為替相場の予測困難な為、その際には国際的な信認が厚く流動性が高い米ドルが買われる、との意味。

「有事の金」…有事(戦争など)の際には、通貨や証券よりも、現物資産である金を買う動きが増える、との意味。

必ずしも格言通りにはならないものの、本質的な部分の理解として格言を抑えておくのは、良い投資判断の糧になるかもしれません。

以上、大きい動きを大まかにまとめてみました。
さて次は今回のウクライナ情勢ではどうなっていくのか少し細かく見て行きたいと思います。

2022年ウクライナ情勢での動き

1.石油、天然ガス

欧州諸国の天然ガスの依存度は高いです。
ロシアの天然ガスの輸出は2021年度では約40%弱が欧州向けとなっております。
ロシアは天然ガスではアメリカに次いで世界第2位の規模を誇っています。
パイプラインとしてトルコ経由の「トルコストリーム」、バルト海経由ドイツ向けの「ノルトストリーム」シベリア向けの「シベリアの力」の3つを中心に天然ガス供給を武器として影響力の拡大を図っています。
実際に供給ショックも起こるかもしれません。
また原油輸出もロシアはサウジアラビアに次いで世界2位の大国となっている。
コロナショックからの復興で供給不足による値段高騰に悩まされているがさらなる高騰を招きかねません。

2.金属

希少金属でいえばパラジウムとの関りが強いです。ロシアが世界に占めるパラジウムの産出量は約4割にも上っており価格が跳ね上がる可能性も高いです。
パラジウムは自動車の排ガス浄化や携帯電話などに使われています。
また、アルミニウムもロシアが世界の約5%の生産を占めており、こちらも供給不足より価格が上がっています。
また米国の半導体製造に使われるネオンの90%以上がウクライナ産だといいます。
影響が長引けばそれに使われる商品価格にも大きく響いてきそうです。

3.穀物

ロシアとウクライナは小麦やトウモロコシなどの主要輸出国です。
ロシアは小麦輸出で約2割を占めて1位。ウクライナはトウモロコシ輸出で約16%で第4位などその影響力は大きい。
日本は直接両国からの調達はないらしいが、国内需要の約9割を輸入に頼っているため、国際価格が跳ね上がれば影響を免れません。
ここに天候などの相場を動かす要因が他に加わってしまうと状況は悪化せざるを得ません。

4.ウクライナインフレ

ウクライナ情勢の悪化に伴い、原油価格の上昇他、穀物、希少金属、天然ガスなども価格がすればインフレ高進に拍車をかけることになります。
特に昨今の世界状況はコロナパンデミックに絡んだ供給制約と相まって世界各国で物価を押し上げている。日本も例外ではなく世界の原材料高騰のあおりをうけ様々な製品が値上げせざるを得なくなっている。
2022年1月のインフレ率は米国で約7.5%、欧州ユーロ圏も約5.1%とかなりの高水準。世界的なインフレが起きているなかでの今回の紛争はさらなる価格上昇を招く恐れがあります。

5.過去の戦争結末(ウクライナ危機・クリミア危機2014年2月)

2014年のウクライナ危機ではウクライナからクリミア半島が独立し、ロシアに併合されました。これを機に反ロシア感情が高まり、新欧米政権が続いていますが、今回ウクライナが敗れることがあると同じような事態になりかねません。
ロシア株はクリミア危機時にはおおよそ20%下落しています。(2014年2月~2014年3月)
ルーブルも対米ドルでおおよそ50%も下落しています。(2014年6月~2014年12月)
好調だった原油も下落
尚、ロシアは各国の経済制裁より2015年にリセッション入りしています。
そのあおりも受けてか原油価格は2014年7月まで100ドル台の推移を見せていましたが、その後20ドル台まで下落しました。

6.ユーロなどの為替

ウクライナ情勢の緊張が高まる中、比較的安全な通貨である円・ドルを買ってユーロを売る動きが出ているようです。
要因としては、ウクライナに地理的に近いユーロが下落する可能性が高いという見方が高まっているようです。
まさに格言通り「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」が当てはまる展開なのかもしれません。
なお、ユーロは対ドルでは、横ばいの展開もありました。
ドイツの好調な経済指標や欧州国債利回り上昇による、ユーロ買い。またそれを抑える地政学リスク。
ただ、ウクライナへの軍事侵攻が長期化した場合、エネルギーコストの上昇が続き、ユーロ圏経済を圧迫するとの見方があります。
そうなると、更なるユーロを売る動きが加速するかもしれません。

7.欧州市場(INDEX)

ウクライナ緊迫化によって実際に、欧州の主要株価指数はどうなっているのでしょうか?
英FT100種平均株価指数(FTSE100)
ドイツ株式主要40銘柄指数(DAX)
フランスCAC40種指数
などは連日ニュースで、欧州市場の下落・反発など乱高下に関する内容が報道されております。
ただ欧州だけに限らず、日経・NYダウを含め、世界同時株安の傾向にあるようです。
(NYダウは、他の要因(金利上昇など)による下げもあり)
開戦懸念が高まるにつれて売り材料が大きくなり、開戦後は停戦時期を見極め、下落・反発を繰り返す状況にあるのかもしれません。

8.日経平均(日本に及ぼす影響)

開戦懸念が高まるにつれて売り材料が大きくなり、日経平均も世界同時株安の傾向にあります。
日本でも原材料高騰のあおりをうけ、戦争に悲観的な見方や長期化する恐れから回復の遅れが見込まれます。各国によるSWIFT排除などの制裁の強化や、軍事侵攻の長期化なども株価へのマイナス要因になります。
その半面、ウクライナとロシアの協議進展への期待感が株価を支援する展開となっているようです。
悪材料の出尽くし、株安続きで日本株の割安感など、そろそろ底入れ近いとの解釈も出てきております。

9.中国の動き

ロシアとの密接な関係が囁かれている中国。ともに対立する米国を前にお互いに関係を深めてきた。北京五輪でも米英などが政府代表を派遣しない外交的ボイコットをする中プーチン大統領は開会式に出席した。
だが一方でウクライナとも経済を中心に強固な関係があるもの事実である。
2011年には中国とウクライナの間で戦略的パートナーシップ関係を樹立している。
2022年1月には国交樹立30周年で習近平国家主席およびゼレンスキー大統領が祝電を交換している。
上記を踏まえると中国がどちらかを一方的に支援というよりはある程度「中立」での立ち振る舞いをするかもしれません。

10.ドル取引停止

ドル決済を禁止する経済制裁である。米国の銀行を介したドル決済や海外送金の取引を禁じて世界の主要市場から排除されることになる。
紛争が始まればロシアのルーブルの下落は必須。資金源としての外貨準備の道を閉ざすことができる。ロシアは約6300億ドルの外貨準備を抱えているとされ、そのドル資産を実質凍結することになる。
だがこれは日本や他国への貿易に影響がでてくる。ドル決済が停止されると貿易取引の代金支払いができなくなり、日本でロシアと取引している企業への打撃は避けられない。また、欧米(EU地域)はさらにその影響が大きく、2019年のロシアの輸出と輸入の取引首位がEUである。こちらが停止にされることは双方にとっても痛手となり、経済への影響は避けられない。
また「SWIFT(国際銀行間通信協会)排除」にも注目されるがこちらも双方に打撃が伴うので、限定的発動になると予想されます。

まとめ

以上、ウクライナとロシア戦争によりどうなるかを過去の戦争から昨今のウクライナ近辺の情勢からまとめてみました。
新型コロナの影響もあり、まだまだモノの供給が追い付いていない状況です。その中での紛争となりますので、モノの価格は更に一段高となることが予想されます。
世界的なお金が、どこからどこへ流れ行くのか見極める重要なポイントとなることでしょう。

<クレジット>
写真AC 道草カフェさん
写真AC photoBさん
写真AC はらりさん